設計者 武市俊氏のコメント

昭和50年発行『日本の外洋ヨット』からの引用です。
KAZIの試乗記は紙面に制限がありデザイナーコメント、IOR計測等が
書けなかったために代表的な18艇について深く書かれた本です。
海小僧こと溝渕雄三サンのご好意により掲載できました。
<設計者 武市俊氏のコメントの前にある『日本の外洋ヨット』誌の解説>
<『日本の外洋ヨット』の前書き>

【デザイナーのコメント 武市 俊】
現在までに,何隻かのFRPプロダグション・ヨットを設計してきたが,
最も大きい33フィート艇をブルーウォーター・シリーズの中に加えることになった。
オフショア・レーサーのミニマム・サイズとして,過去にはRORCの定める
水線長24フィートが1つの基準と考えられたが,新しいIORでは
グラスVのミニマム,水線長22フィート前後が1つの目安と考えられる。

「BW-33」は,全長に比較して長い水線長25.6フィートを有し,
前記のミニマム・サイズからは,一段余祐のある寸法のボートで,
最近特に話題となっているハーフトンとワントン・ボートの中間に位いする
スリークォータートン・ボートのサイズである。

この「BW-33Jの設計に際し,基本的方向として目指したものは,パワフルな
帆走性能と快適な居住性の両立である。
それは, これら2つの要素が,決して互いに対立するものではない,
というよりは,むしろ,これら2つの要素を同時に追求したものが,
本来のオフショア・レーサーの姿であると考えたからである。

かつて私自身が持っていた,居住性を最低限にとどめて帆走性能を追求するという方法が,
これからますます長距離の本格的外洋レースが行なわれるであろう時に,
本来の外洋ヨットのあり方に逆行するものであることを,69年ならびに71年の
シドニー〜ホバート・レースに参加して,思い知らされたからである。
日本でも,沖縄レース(680浬)や八丈島レース(280浬)などの本格的な外洋レースが
開催されるようになり,居住性の重要度が,より認識されるようになった。

さて,私のデザインの傾向と変化,および「BW-33」の性格を知っていただくために,
今日までに私が設計した32〜 33吹のボートの主要寸法を,設計順に別表にあげておいた。
この表を見ても解るとおり,「BW-33」は,いままでのものより,ビーム,特に水線巾が広く,
TH(カヌーボデーの水面下の最大深さ)が最も浅い,いわゆるフラットなラウンドビルジの
軽排水量型の艇体である。

これは, フォーム・スタビリティーが大きいことを物語り,同時に軽排水量型にして
きわめて重い、バラスト/排水量比が51%に及ぶバラストを持つことで,
総合して著しく大きいスタビリティーを持っている。

この強力なスタビリティーを基盤に,比較的大きな
セールプラン(SA/2/3乗― セールエリヤ,排水量比参照)を持つことで,
強風,微風のあらゆる海象下での,優れた帆走性能が期待できよう。

水面下の形状で特徴と言えるものは,側面積が小さく,アスペクト比の高い全鋳鉄のフィンキール
で,スパンワイズ・フローの減少を計って,下端を傾斜させたことが,特異の形状をかたちづくっている。

また,舵およびスケグは,操縦性を良くするため,可能な限り後端に寄せた。
外観的に見ると,高いフリーボート, ミニマムまで切りつめたスターンのオーバー・ハングと,45°
に傾斜した大きなリバース・トランサム,マスト位置がミドシップに近く,セールプランの重点を、
よリフォア・トライアングルにおいたセール・アレンジといったところが特徴であろう。

デッキ・アレンジは,最近の外洋レーサーの傾向であるスピネーカーあるいはジェノア・シートのシ
ーティング・ポジションを,マストサイドで行なえるようにし,セールを直接, 日で見ながらトリムで
きるようにしたが,荒天などの場合は,従来どおりコグピットでもトリムできるよう考慮した。

その他,バックステー・アジァスターをスタンダードで備えてあり,デッキ・スイーパー(デッキに
フットをぴったり付けたジェノア)を考慮したステムヘッドおよびデッキ配置、物入れにも使えるメー
ター・コンソールの,常設等,かなり高度のレーサーとしての艤装を基準とし,機能的かつ戦闘的に配置
した。それと同時に,イージーセーリングおよびシンプルな艤装でも,充分,帆走性能を楽しめるよう
に考えたつもりである。

船内居住区の基本型は,従来から多くあるごく普通の, しかし使いやすい配置であるが,
フォクスルのエクストラ・バースを含めて6人分のバース,広いセールビン, トイレットルーム,
ハンギングロッカー,L字型ギャレー,チャートテーブル,オイルスキン・ハンギングと,
必要最低限のものは,ある程度ゆとりを持って配置した。

そしてこの型をベースとして,ダイネッティー・タイプにすることも可能であり,あわせて
小さいながらステートルームあるいはバーを備えることも考慮した。
´
以上が「BW-33」の概容であるが,この艇は,あくまでパワフルなスピードと,強気な性格の
ボートを意図して設計したもので, レーティングを下げることによってレースの
勝率を上げることより,若干レーティングは高くとも,それを上まわる性能と,
重量軽減に対してさほど神経を使わずとも、充分な水,食料,乗員を乗せて,
使いやすく,ゆとりのある居住区によって,長期の航海に楽しく挑戦で
きるボートになることが私の願いである。

HAYAMARU KUROSHIO HAYATE MELUSINE BW33 備考
LOA 10.100m 10.200m 10.200m 9.800m 10.000m
LWL 7.400 7.400 7.400 7.800 7.800
OB 1.380 1.420 1.500 1.200 1.300 バウのオーバーハング
OS 1.320 1.380 1.300 0.800 0.900 スターンのオーバーハング
BOA 2.75 2.85 2. 830 2.940 3.060
BWL 2.412 2.496 2.51 2.54 2.785
d 1.770 1.770 1.770 1.810 1.800 喫水
TH 0.782 0.627 0.780 0.560 0.522 カヌーボディの水面の最大深さ
5,300kg 5,000kg 5,300kg 4,600kg 4,700kg 排水量
WB 2,400 2,000 2,600 2,200 2,400 バラスト重量
WH 2,900 3,000 2,700 2,400 2,300 排水量からバラストを引いた重量
I 12.000m 12.000m 12.200m 11.800m 12.000m
J 3.960 3.900 4.100 4.000 4.250
P 10.000 10.200 10.300 10.000 10.100
E 3.7 3.5 3.3 3.1 3.2
SA 42.3u 41.2u 42.0m2 39 .7m2 41.7u 100%Fore Triangle+Main
SA/2/3 149 151 148 154 160
Ball/ 45.3% 40.0% 49.1% 4.8% 51.1%
(L/100)3乗 369 348 369 274 280